
ショーファー・ドリブンではなく“ショーファーレス”の時代へ
「今ある中で最高のものを選び、より良いものにしなさい。なければ、生み出しなさい」とは、ロールス・ロイスの創業者の1人であるヘンリー・ロイス卿の言葉だ。100年以上を経た今でも、その信念が貫かれていることは、ロールスロイスの製品に触れれば誰もが感じることができる。最上級モデルの「ファントム」、ドライバーズ志向を目指した「ゴースト」、一昨年に登場した2ドア・クーペの「レイス」、そのオープン版となる「ドーン」のいずれもが、それぞれのセグメントで“最高のもの”なのは明らかだからだ。
ところが、そんな風に伝統を貫く老舗のロールスロイスが、100年後の未来を見据えたコンセプトカーを世に送り出して大きな話題を生んだ。実は、100年を越えるロールスロイスの歴史の中でコンセプトカーを打ち出すのは初である。ロールスロイスは元々、製品の一台一台が顧客の好みにあわせてビスポーク(オーダーメイドの意味)されており、すべてがコンセプトカーのような“超”が付く高級車ブランドなのだが、今回はあえて従来の高級車の概念を覆すようなコンセプトを打ち出した、というワケだ。
姿形からして、刺激的だ。なんといっても、ショーファー・ドリブン(運転手によるドライブ)を旨とするロールスロイスなのに、運転席がない。2050年ごろを想定して考えられているため、自動運転の技術を採用しているからだ。実のところ、一般的な自動車メーカーにとってドライバー=顧客だから、自動運転の時代になってもドライビング・プレジャーを謳わざるをえない。しかし、オーナーが後席に座るスタイルであれば、“ショーファーレス”として、クルマの中はプライベートな空間と割り切ることができるのだ。

リビングルームのようなリラックスした空間に座ると、ロールスロイスの象徴的存在である“フライング・ピューティー”のホログラムが現れる。本来、ボンネットの上に鎮座するカーマスコットなのだが、未来では彼女が人工知能によるバーチャルなアシスタントとして、オーナーの望みを聞いてくれる。
行き先を言えば目的地を設定するのは当然だが、「お腹がすいた」と伝えれば、付近のレストランを推薦するといった人工知能ならではの対応もしてくれる。

12気筒エンジンが搭載される現在のロールスロイスをイメージして、電動パワートレインの時代であっても、あえてロングノーズのスタイリングとした。ただし、ボンネットの内側にエンジンなどはなく、ラゲッジスペースに当てられている。
すっと走りだすときの滑らかな加速感は、大排気量エンジンで巨大なトルクを生み出すロールスロイスならではだ。カーブに差し掛かって操舵するときには、おおぶりなステアリングホイールを送ってやれば、弧を描くように曲がっていく。正直なところ、スポーツカーのようにやる気になるわけではないが、快適さと滑らかさでは抜きん出ている。50㎞/hまでならボタン一つでルーフを開閉できるのもいい。
実際、“The Bestー最高”という賛辞がロールスロイスほど似合うクルマはない。その根底には、ヘンリー・ロイス卿の言葉が、創業から110年以上が経つ今でも受け継がれているからだろう。
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