
50億年後、太陽は死ぬ。その時われわれが目指す星はプロキシマb、おまえなのか…
ヨーロッパ南天天文台(ESO)が地球そっくりんこな星を見つけたとの噂が広まり、「今世紀最大の発見」と騒がれる中、詳細を記した論文が24日ついに正式にNatureに発表され、ガチで見つかっていたことがわかりました!
噂を最初に伝えたのは、ドイツの週刊誌Der Spiegel(デア・シュピーゲル)。ラ・シヤ天文台の匿名メンバーの話として今月12日にスクープしました。
星の名は「プロキシマb(Proxima b)」で、恒星「プロキシマ・ケンタウリ」のまわりを回る星です。地球からはたった約4.2光年の超近場で、有名なアルファ星AとBのペアより地球にいくぶん近い距離です。質量は地球の約1.3倍。
プロキシマ・ケンタウリからの距離は約692万kmで、太陽と地球の距離のたった5%しかありません! 相手が太陽だったら瞬殺ですが、光が弱っちい赤色矮星なので、水が干上がることもなく、程よい気温で水が地表に存在できる太陽系外惑星のハビタブル・ゾーン(居住可能圏)にバッチリ入っているんです。
恒星の光を浴びながらその周りをせっせと回る太陽系外惑星は1995年に初めて発見され、これまでに3,000個以上見つかっています。「われわれは岩石惑星だらけの宇宙に住んでいるのだ」と、スペインのアンダルシア天体物理学研究所のPedro Amado氏は発表記者会見で言ってます。特にプロキシマ・ケンタウリのような赤色矮星は、地球ぐらいの大きさの、ちっちゃい岩石惑星が多そうだ、ということで熱い視線を浴びていました。
主著者の英クイーン・メアリー大学講師Guillem Anglada-Escude氏によると、プロキシマbちゃんの存在は2013年にはキャッチできていたのだけど、そのときは発見を裏付ける充分な証拠がなかったんだそうな。そこで今度は地球をカール・サガンが「ペール・ブルー・ドット」と呼んだのにあやかって、「ペール・レッド・ドット」という観測キャンペーンに乗り出してみました。
参加したのは8カ国の総勢31名の科学者で、観測のカギとなったのはドップラー効果です。これによりプロキシマ・ケンタウリが発する光のスペクトルの微かなズレを探知し、11.2日置きに時速4.8kmで地球に近づいては遠ざかっていることがわかりました。このような揺らぎは、周囲を回る惑星の引力で引き起こされるものと考えられます。この「ペール・レッド・ドット」観測キャンペーンで得たデータと2000年から2014年の先の観測で得たデータを総合した結果、ドップラーシフトのデータに顕著なピークが確認され、地球サイズの太陽系外惑星とわかった、というわけですね。

左: 太陽と水星(地球の内側を回ってる)、右: プロキシマ・ケンタウリとプロキシマb。image: ESO/M. Kornmesser/ G. Coleman
この観測で用いた技術自体はもう10年以上前からあるものなので、「なんでそんなに長くかかったの?」って不思議ですけど、プロキシマ・ケンタウリは活発で、あたかも惑星の存在を裏付けるかのような紛らわしい光が自然に出ちゃったりもするんだそうな。しょうがないので、ほかにも2台の天文望遠鏡を使って星の光の変動を確かめ、誤判定を潰していくという地味な作業をコツコツやってきたんです。記者会見でAnglada-Escude氏(写真下)は「シグナル誤判定の確率は今やたったの1000万分の1だ」と自信を漲らせていますよ。

気になるのは空気があるかどうかですが、それはまだわかりません。プロキシマ・ケンタウリはなんせ活発なので、プリキシマbは地球の約400倍ものX線フラックスを浴びており、空気なんて吹っ飛んじまうレベル。
ただ実際のところは太陽系外惑星がいつどのように形成されたかによる、と独ゲッティンゲン大学のAnsgar Reiners教授は言っています。恒星プロキシマ・ケンタウリよりもっと遠くで生まれて、水がある状態でだんだん近づいてきたのか、それとも、もっとそばで生まれたのか? 前者なら空気がある確率は高くなります。
「たくさんモデルとシミュレーションがあって、そのどれをとるかで結果もぜんぜん違ってくるんだ、大気も水も含めてね。手がかりは何もないが、[大気が]存在する可能性は間違いなくある」とReiners教授。
水もある。空気ももしかしたらある。となれば、もう行って確かめるしかない!という気持ちになってきましたが、今その位置に一番近いと言われている超小型宇宙船探査計画「ブレイクスルー・スターショット・イニシアチブ」のAbraham (Avi) Loeb会長(ハーバード大学教授)に取材したら、このように話していました。
「プロキシマの寿命は数兆年で、太陽の寿命の残りより千倍近く長いんですよね。その周辺のハビタブルな岩石惑星は、今から50億年後に太陽が死んだのち人類が移住を目指す先としては自然な候補と言えるでしょう」

プロキシマbの想像図。50億年後、太陽が死滅した後われわれはここに向かうのだろうか…。image: ESO/M. Kornmesse
今年4月に鳴り物入りで立ち上がったこのプロジェクトは、ロシアの富豪ユーリ・ミルナーがスティーブン・ホーキング博士らと立ち上げたもの。1億ドル(約100億円)を投じ、星間飛行の実現を目指しています。その第一弾として作るのが、光速の最大20%のスピードで宇宙を飛ぶ超軽量な「ナノ飛翔体」です。プロキシマ・ケンタウリまで普通に飛んだら人類最速のボイジャーでも7万年ぐらいかかってしまいますが、これだったら20年ちょいで到達できるんです。帆を立て、そこに強力なレーザービームを当てて駆動するという途方もないアイディアでありまして、今はその実証性を示そうとしている段階です。
今回プロキシマ・ケンタルリを回る居住可能かもしれない惑星が見つかったことで、フライバイ探査にはもってこいの目標ができたと、Loeb会長は張り切っています。
「宇宙船にはカメラと各種フィルターを搭載するので、惑星のカラー写真も撮れるし、緑(われわれが知ってるような生命体がいる)か青(地表に海がある)かただの茶色一色(乾いた岩だけ)かもわかるよ。特に地球の見晴らしのいい場所の天体望遠鏡でも観測不能なところなど、もっと詳しく知りたいという好奇心(生命体がいるかどうかが最大関心事)は、スターショット・イニシアチブにも弾みになる」と語り、Gizmodoでは発表当日のQ&Aでさまざまな読者からの疑問にも答えてくれました。
記者会見でブレイクスルー賞財団のPeter Worden氏はこう話しています。
「ナノ探査機の打ち上げは目が黒いうちに実現できたらと期待しているよ。今の提案にあるシステムの到達圏内に少なくともひとつ極めて興味深い目標物があることがわかった。写真を撮って生命体がいるかどうかも確認できるし、もしかして高度な生命体かもしれない。これ以上ない疑問だし、その答えは今世紀中にわかると思う」
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